ドラクエ7冒険記 <さくさくDQ劇場

FILE:60「勇気だけじゃ出来ない事がある」
ペペは、ハーブ園の入り口あたりを一人でウロついていた。
おいおい、何だってパーティーの主役がこんな所にいんだよ。と何も知らないそぶりで聞くと、人の多い所が苦手とか何とか適当な言い訳をされた。
「皆さんは僕にかまわず宴の夜を楽しんでください」
ぎこちない笑顔でそう言うだけで、宴の輪の中に入ろうとしないペペ。
それ以上何も言う気になれない俺は、奴をそっとしといてやる事にした。干渉できる事じゃないし、すべきでもないだろう。
と決めてハーブ園に戻ろうとする俺の腕をひっぱるマリベル。
「あ〜気になるわ。ちょっとアナゴン!リンダが好きなのかどうかペペに聞いてきなさいよ!」
やなこった!何故お前はいつも俺にそーいう役をさせたがるんだ!!
ていうかちったあ空気を読めよこの女は。


宴の席に戻った俺はボルックに、ペペが来ないという事を当たり障りのない理由をつけて話した。
「うーむ、そうですか。困ったな。どうしたものか。
 ペペがいなくとも、このままリンダとイワンの結婚の日取りを発表してしまうべきか…」

ボルックは考え込んでいる。あー、そういう事か。もしかしてペペがここに居たくないのは、そいつを聞きたくないからだっていうのもあるからなんだろうか。だとしたらやっぱりペペはリンダの事が好きなんだろうな。
それにしても、ボルックがその事を知らないっていうのも厄介だよな。もしリンダとペペ両人の気持ちを知っていれば、借金の事があれども息子との結婚を祝福するなんて事はなかっただろう。こいつ結構話の分かる奴だしな。イワンの馬鹿と違ってさ。

なんて事を一人で考えていた時だった。最初は一滴。それから次々と頬にあたる雫。
雨か?見上げる俺達。夜だから全然気付かなかったが、いつの間にか空は厚い雨雲に被われていた。
街の人々の顔色が、変わった。
「こ…この雨はもしや……」
「おい見ろ!紫色の雲だ。あの時と一緒だぞ!」
「ははは、灰色の雨だああっ!」
「イヤよー!石になんかなりたくない!」
「早く逃げろ!雨にあたったらペペみたくなっちまうぞ!」

息をのんだ。
本降りになる雨。逃げまどう人々。一瞬にして宴はパニックに変わる。
突如騒然となった周囲に流され、俺達もその一員となる所だったのを救ったのは、ボルックの一言だった。
「落ち着け皆の者!よく見ろ!これはタダの雨だ。断じて灰色の雨などではない!」
ハっとなって俺はその場に踏み止まる。ボルックのいう通り冷静になってみると、確かに普通の雨だった。雲を見ても、紫色というよりは夜の闇の色って感じだし、身体に少しの異変もない。何よりこの雨からは、不穏なものが何も伝わってこない。
ふー、俺もまだまだだな。胸をなで下ろしながら、物事の真偽をとっさに判断できない自分の未熟さを感じた。
しかし街の人々は、いくらボルックが声を枯らして叫んでも誰も耳を貸そうとはしない。皆が皆雨から逃れようと必死に逃げ散り、あっという間にハーブ園はボルックと俺達だけになってしまった。
その様子を見てキーファがつぶやく。
「灰色の雨の恐怖がいまだに街のみんなを苦しめているようだな…」
そうみたいだな。ちょっとやそっとで忘れられるような体験じゃなかっただろうし、何より雨のせいで固まっちまったペペを知ってるしな。
「どうしてくれるのよ!あたしの一張羅がびしょ濡れじゃないの!みんなみ〜んなアナゴンのせいよ!
何でだよ!
神妙になる俺達とはうらはらに一人でキレているマリベル。見兼ねたキーファが、
「うるさいなマリベル。地団駄を踏むのはよせよ。ガキっぽくてみっともないぜ」
「ガキっぽいですってぇ〜!ダメ王子は黙ってなさいよ!
 あーもう家に帰りたいー!」

マリベルもキーファに注意されるとは心外だろうな。まあたまにはいい薬…になればいいけど。
とにかく、屋敷に入ろう。この雨じゃあもう宴は中止だろう。
濡れネズミの俺達は、ボルックの屋敷で雨をしのぐ事にした。


そして数分後、俺達はまた外にいた。
屋敷の中に、リンダの姿が見当たらなかったんだ。何かある。衝動的に飛び出した。
妙な胸騒ぎを覚えた俺は彼女の姿を探して、雨降りしきる街を走り回った。干渉しないと決めておきながら自分でも矛盾しているとは思うが、どうにも気になって仕方なかった。この先の展開が俺を必要としていると予感でもしたんだろうか。それとも所詮俺もマリベルと同じ、好奇心が押さえられないタイプの人間なんだろうか。

リンダは空き地にいた。宴の時、ペペとカヤが話をしていたあの場所だ。
そしてペペもいる。カヤではなく、今度はリンダと対峙している。必然的に俺達は立ち聞きモードに突入した。
「さあ答えて。時間も経てば、考え方も変わってくるでしょ?」
「あの時断ったのをもう忘れたってのか。何度聞かれたって僕の答えは変わらんよ」
夜の闇と雨のせいで、二人の表情はよく見えない。しかし声の感じでどんな心情なのかは大体読み取れる。
リンダは諭すような、すがるような声でペペに言葉を投げかけている。
「そんな事言わないで、一緒にこの街を出ようよ。ハーブの事たくさん勉強したんだよ?あなたの役に立てるようにって…」
しかしペペは、冷静に返す。淡々としているようにみせて、どこかで感情を押さえてるような声だった。
「それでもダメだ。駆け落ちなんかしたら、みんなを裏切る事になる」
「みんなみんなって、なんで周りの事ばっかり気にすんのよ!あんたの気持ちはどうなの?!」
核心に迫るリンダの一言。
しかし、ペペは無言だった。
「…そう……。分かったわよ。このいくじなしっ!
 あんたなんか…あんたなんかずっとここで雇われ庭師をやってればいいのよっ!
 イワンの奥さんになったら、あんたをうんとコキ使ってやる。覚悟してなさい!」

怒りと悲しみの混じった、リンダの激高。
「早く家に入れ…。でないと風邪をひくぞ」
ペペは受け入れるでもなく反発するでもなく、流すだけ。
「バカっ!あんたなんかいなくなればいいのよ!もう顔も見たくない!」
涙の叫びが、雨音と雷鳴を裂いた。やはり無言で、ペペは去っていった。
「あのバカ…。泣いて土下座したって、絶対許してやるもんか…」

「ふわあ。ごめんなアナゴン。オイラねむくなってきたようだ。あんまり夜更かしすると次の日がつらいぞ」
ええいいきなり緊張感のねえ発言すんなお子さま!それ所じゃない!
「なんで?どうして?あたし信じらんない!
 リンダが勇気を出して誘っているのに、ペペってなんていくじなしなの?
 いい?アナゴンも王子も、ペペにキツ〜イ一言をガツンと言ってやんなさいよ」

だからなんで俺らが!
「自分で言えって…」
めずらしくツッコミが重なる俺達。
じゃなくて!
「あの様子じゃ、リンダよりもペペの方がずっと心配だな」
そう、それだ!
なんか今回キーファがやたらマトモなのもある意味心配だけど。
俺達はペペの後を追った。雨はまだ降り続いていた。


ペペは、街の入り口にいた。
いつ用意したのか、簡単な旅装束でだ。
「待った甲斐がありました」
俺達の姿を見て、ペペはそう言った。俺達を待ってただって?どうして。何の為に。
ペペは俺が疑問を口に出す前に言葉を続けた。
「お世話になった皆さんに最後のお別れをしようと思い、ここで待ってたんです。
 散々迷ったけど、街を出る事にしました。勿論僕一人でね。
 さようなら、みなさん」

深々と頭を下げるペペ。
…ちょっと待てよ、突然すぎるぞ!ていうかあんた一人で行くのかよ!
「まてよペペさん。借金ならリンダと強力して返していけばいいだろ?
 ボルックさんに今からでも頼んでみろよ。あの人ならきっと分かってくれる!」

そうだよ。何も一人で黙って出てく事ないだろ。
「あなたの言う通りだ」
俺達の言葉をうけ、ペペは目をふせた。
「もっと早くそうすべきだった。けど、もう遅い」
沈痛な言葉にハっとする。またしても、俺は何も言えなくなってしまった。
「僕は、要領が悪すぎた」
ペペは最後にそう言うと、雨の中に消えていった。



分からない。俺ならどうしていただろうか。

リンダへの気持ちを貫くのなら、自分の家族が路頭に迷う事になる。雇い主も裏切る事になる。
道はあったはずだ。しかし、ペペは行かなかった。いや行けなかったんだ。彼の最後の言葉がそれを物語っている。不器用な男だったんだ、ペペは。
性分か……。
夜空を見上げた。相変わらず雨の勢いは止まらない。

ペペの行動を、間違っていたとは俺は思わない。でも、これでよかったとも思わない。
どう思っていいのか、それすら分からなかった。
一つだけ分かっていたのは、
「皆が幸せになりたいと願った。でも、誰一人幸せにはなれなかった」
という事だけだった。
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