「ぬおおぉ、これは悪い夢だ。パミラばあさんに頼まれて薬の材料を買いに来たってのに……。いつの間にかエンゴウに帰れなくなってるなんてよおぉ。こんな事があってたまるか!だからこれは夢なんだ。酔っぱらってるオレが見た悪い夢なんだああぁ!」
そう泣き叫びながら、「東の方から来た男」はヤケを起こしてバーのステージでぐるぐる踊り出した。相当酔っているみたいだ。
東へ発つ前に情報収集をと思って聞き込んでいた俺達だが、ここでパミラばあさんの名前を聞くとは思わなんだ。
分かった事は、ここから東にはあのエンゴウがあるという事。火の山とかほむら祭りとかがあったのあの茶っこい村だ。そこで世話になったパミラばあさんは占い師でもあり薬師でもあったから、薬の事はきっと相談に乗ってくれるだろう。しかし問題は東に行けなくなっているという事だ。ここはまだ石版に封じられている世界だからな。
という事はやっぱり、選ばれし俺達じゃないとエンゴウには行けないって事か。
で、エンゴウ(過去の)行って薬貰ってきました。この迅速な行動、我ながら惚れ惚れするね。
俺はパミラばあさんから貰った秘薬を、今だ固く横たわるペペに飲ませた。どうしてカッチンカチンに固まってる人間が薬飲めるんだよ、などという野暮なツッコミはしないように。
ほどなくして、
「ううっ、身体が…」
ペペは意識を取り戻し、上半身を起き上がらせた。同時に、見守っていた人々の間に安堵と歓喜が広がる。
「おお!奇跡だ!」
「兄さん兄さん!やっと目が覚めたんだね!」
何が奇跡だ。もしこれで効き目なかったらサギだっつの!!などと一人だけ冷めている俺。
「ねえ、ペペ分かる?私だよ、リンダだよ」
目に涙を浮かべたリンダがペペに話し掛ける。心底ホっとしたような表情だ。
ペペはそんなリンダをやや狼狽えた表情で見つめながら、そっとベッドを降りた。
「ああ、無事だったのか。良かった、石になってなくて」
「ううん、違うよ。一度は町の全員が石になっちゃったのよ。」
「そして皆が助かった後も、お前一人だけが何故か寝たきりになってしもうたんじゃ。そのお前を助けてくれたのがここにいる皆さんじゃよ」
「そうだったのか…。ありがとう皆さん。すっかりお世話になったようで」
リンダと父親からの説明を受けて、全て理解したペペは俺達に深く頭を下げた。
…ま、なかなかイラつかせて貰ったけど、これでここの事件が全て解決したんならそれでいーかな。今回は大した戦闘もなかったし。終わりよければ全て良しとしといてやろう。
などと俺が思っているとイワンの馬鹿。
「はためいわくなヤツだよ。寝ている間、ずっとリンダを独占していたんだから。まあペペが目覚めたお陰でリンダが元気になったんだから、ペペに感謝って所かな。 そうだ父さん、今夜ペペの全快を祝って宴をひらこう」
ときた。本っ当リンダリンダとやかましー男だな。ウザいにも程があるぞ。俺がリンダだったらぜってーこんなのと結婚なんざしねえな。借金の事があっても。
「おお、それはいい。是非アナゴンさん達にも出席していただきましょう。 では宴の準備がととのうまで、わしの屋敷でしばしお休みください」
イワンの呑気で無責任な提案を、あっさり承諾する父親ボルック。
事件は片付いたんだから、俺はさっさとここを後にするつもりだったんだけど。まあ断るのもなんだし別にいいか。お言葉に甘えるとしよう。
何より宴と聞いて、俺の仲間の約1名が思いっきり反応しちまってるので帰るに帰れねえ。
そんな訳で、俺達はもうちょっとだけグリーンフレークに留まる事になったのだった。
「用意がととのいましたので、どうぞお出かけ下さい」
ボルックの屋敷でくつろいでいた俺達に声をかけたのは、メイドのカヤだった。
「場所はハーブ園です。お料理は私腕によりをかけて作りましたので、たくさん食べてくださいましね」
ああ、どうも。
俺達はハーブ園へ向かう。ガボは一人で興奮してて、
「やったぞアナゴン!ついにオイラ達がメシにありつける時がきたぞ!」
「ウガァ!はやく行こうよ。急がないとごちそうがなくなっちゃうぞ!」
とかやかましいったらありゃしねえ。いいから落ち着けって。
かたやマリベルはとんでもない事をぬかしやがる。
「田舎の料理ごときでこのあたしの上品な味覚を満足させられるのかしら。いい?もしマズかったらアナゴンがあたしに代わってテーブルをひっくり返すのよ!」
出来るかぁー!
星一徹か俺は。
ハーブ園にはいくつものテーブルや椅子が設けられていて、沢山の料理が並べられている。ガボまっしぐら。
どうやら街中の人間が招待されているらしく結構な賑わいだ。人々の顔は皆一様に明るくて、こういうのを見ると「あー、いい事したんだな」とか思えてくるな。
「おお、待ちかねましたぞ」
ボルックだ。主催者らしく一番目立つ席から俺達に声をかけた。
「ようこそおいでくださいました。気軽な席ですので、どうぞ自由気ままに料理をおつまみ下さい。 ところで皆さん話は変わりますが、どこかでペペを見かけませんでしたか?どうもペペの奴、わしの気付かぬうちにこっそり席を外したみたいで。病み上がりだからまだ身体の方が本調子ではないのでしょうか…」
はあ、いなくなったと。
俺の脳裏に、ペペとリンダ、イワンの顔が次々によぎった。部外者で事情をよく知らない俺には察する事は出来ないが、なんか複雑だったようだからな。もしかしたら、ペペはこの場に居たくないのかもしれない。しかしなあ
「やっぱ主役であるペペがいないと、宴も盛り上がらないか」
キーファの言う通り。あいつの全快を祝う為の宴なんだからな。逆に心配かけてちゃ駄目だろう。
テキトーに料理をつまんだ俺達は、ペペの姿を探す為にそっと宴の席を離れた。
ペペの姿はすぐに見つかった。ボルックの屋敷のすぐ近くにある、樹木に囲まれた空き地だ。
声をかける為に近付こうとした俺だが、ハっと思いとどまった。そこにいるのはペペだけじゃない。メイドのカヤもいる。二人はなにか話をしているようだった。
「バカ言ってんじゃないよ。そんな事、出来るわけないだろ」
「絶対うまくいくわ。第一あなたにはハーブがあるじゃない。リンダと二人でこの街を出ていったとしてもやっていけるわよ!」
うわ。
なんかまた、聞いてはいけない類の会話を盗み聞きしてないか俺達。
狼狽えながら隣のマリベルを見た。予想通り、真剣な顔で二人の会話に聞き入っていた。
「駆け落ちなんかしてみろ。残された父さんと弟がどうなるか想像つくだろ!」
「リンダと一緒になれるのよ!だったら家族の事なんてどうだっていいじゃない! 私はイワン様のもとでメイドとしての生活を続けていきたいだけなの」
すげえ事言うなこの女。正直すぎ。
「だから僕はリンダと駆け落ちしろってのか。ハン、冗談じゃない。 悪いが、断る。駆け落ちなんて身勝手な事、僕に出来るもんか」
あくまで利害の一致を求めるカヤに、冷たく言い放つペペ。
「あなた……。リンダがイワンの妻になるのを側で見ていて平気なの?悔しいって思わないの!」
私は耐えられないわ。と言わんばかりの剣幕で、カヤはペペに詰め寄る。しかし、ペペは無言で去るのだった。
あーもう勘弁してくれこの気まずさ。ドロドロじゃねえか。
事件を解決したにもかかわらず、実際はもっとややこしい事に関わってんじゃないかと思えて仕方ねえぞ。
という俺の葛藤をよそに盛り上がる仲間達。
「あのメイドって、本気でイワンの事が好きだったんだなぁ」
「今さら気付いたの?バッカじゃないの!あたしなんか最初っから知ってたもんね!」
「なんども聞くなって。オラには男と女のことはちんぷんかんぷんだぞ」
いや聞いてねーし。
一人で消沈している俺に、なんか一番イキイキしているマリベルが偉そうに言う。
「ウブなアナゴンのために、親切なあたしが分かりやすーく説明してあげる。いいわね? まずカヤはイワンが好き。イワンはリンダにメロメロ。リンダはペペにまっしぐら。さて、ペペが好きなのは一体誰でしょうか。あとは自分で考えなさい」
リンダじゃねえの。
ていうかもういいよ。戻ろうよ。ペペもまたどっか行っちゃったしさあ。
一人空き地に残っているカヤ。こちらに気付くと、先程の剣幕が嘘のようなにこやかな表情になった。
「あら皆さん。どうです?私の料理はお口に合いまして?」
え、えーっと、そりゃもう。思わずテーブルひっくり返しそうになるくらい旨かったです。
立ち聞きしていた気まずさから、しどろもどろになりながらようやっと答える俺。
「うふふ…。そうですか。 ではそろそろ毒が効いてくる頃合ですね」
………。
ーーーーーーーーー!!!
「冗談ですよ」
笑顔のままカヤは言った。
…冗談に聞こえねえー!めちゃくちゃビビったぞ!!
思いっきり動揺する俺達をしり目にカヤは淡々と続ける。顔は笑っているが、目が笑っていない。
「でも、ホントに毒を混ぜておけばよかったと思ってます。リンダさえ居なくなれば、私はこれからもイワン様を一人占めできるから」
恐えーーーーーー!
そそくさとその場を離れる俺達。やべえあの女、本気の目だった。俺、人間をあそこまで恐いと思ったのはカヤが初めてかもしんねえ。
多かれ少なかれ仲間達も俺と同じ気持ちのようで、先程とはうってかわって表情がこわばっている。
「びっくらこいたあ〜!メシに毒をまぜただなんて、シャレになんねえぞ」
誰よりもあの料理をたくさん食っているガボが身震いした。いやもう、あの女の存在自体がシャレになってねえよ。
ペペを探しにきただけなのになんでこんなコワい思いしなきゃならないんだろう。
ていうかペペはどこいったんだろう。
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