ドラクエ7冒険記 <さくさくDQ劇場

FILE:55「リンダリンダ」
あー長かった。フォーリッシュは長かった。たった数日の出来事なのにまるで半年ぐらいに感じたな。
あの後赤い石版をいくつか入手し、俺達は新たな世界へとやってきた。
そこは既に、異様な雰囲気と重苦しい闇が支配する不毛の地と化していた。すぐそのへんには毒の沼地まで広がっていて、どうやらもう既に何かが起こった後のようだ。しかしさすがにこういう状況には慣れきっている俺達なので、まずはセオリー通り近くに町か村がないかどうか探しはじめる。



俺達が出現した場所から北に山を越え森を抜け、やがて街とおぼしき場所に辿り着く。入り口の看板には「グリンフレークへようこそ」と書かれていた。どうでもいいけど街の入り口に立ってる看板って同じ事しか書いてねえよな。たまには少しぐらい違っててもいいのに。「おいでませグリーンフレーク」とか「熱烈歓迎!娯楽の殿堂グリーンフレーク」とかさ。
…などとアホみたいな事を考えていた俺だが、街の様子はそんな呑気なモンじゃなさそうだ。
「あれれ?どうしいたんだ。だーれもいないぞ」
「妙だな。人が住んでいないかのように静まりかえっている……」
ガボとキーファがそれぞれやけに説明的につぶやく。その通り、町に一歩踏み込んだだけで、人の気配なんか全然ないのが雰囲気で分かった。世界が闇に飲まれているせいもあって、ゴーストタウンさながらの不気味さだ。
「も、もしかして、めちゃ強い魔物が町の人を一人残らず食べたとか…。いい、アナゴン。もし魔物が出て来たら、まっ先にあたしの盾になりなさいよ」
やなこった。
まあとにかく何が起こってるか把握しなきゃな。俺達は手始めに、すぐそこにあった宿屋に入ってみる事にした。

宿屋で俺達が目にしたのは、3体の石像だった。入り口付近には若い女、カウンターの向こうに立っている受け付けのおばちゃんらしき像。その向こうにいる男の像は、まるでたった今ここに駆け込んできたかのような恰好だ。これって…
「こんな不自然な場所に石像が立っているなんて、ダイアラックそっくりだな…」
そう。雨乞いの途中に灰色の雨に降られ、町の中にいた全員が石に変わっちまったあのダイアラックの町と同じ状態なんだ。
その時にはまだ俺達の仲間じゃなかったガボが一人首をひねった。
「うー、気味がわるいぞ。なんでこんな場所に石像なんかがあるんだ?」
「ただの石像じゃない。これは呪いのせいで人間が石にされた姿なんだ」
「うがァ!ここにある石像はみーんな人間だってのかい。オイラ信じられねえよ」
他の家屋にも片っ端から入ってみたが、どこもそんな状態だった。人間、動物は全て石像になってしまっている。ただダイアラックの時と違うのは、石になってからそれほど時間が経っていなさそうだという事。そして石像が皆建物の中にあるという事だ。
どうでもいいが、武器屋や道具屋の店員も石になっているので、買い物が出来ないマリベルがギャーギャーうるさくて仕方なかった。


町の様子を見て歩いていると、ひときわ大きい庭付きの屋敷を見つけた。町長か金持ちの家なんだろう。庭には噴水があり、その前に2体の石像がある。男が女をかばうような恰好で石化しているようだった。外にある石像はこの2体だけのようだが……ってああっ!!
ふと見上げると、その屋敷の屋上に魔物の姿が見えた。俺達は急いで屋敷に踏み込み駆け上がる。
そこにはピンク色のありくいみたいな魔物がいて、そいつは屋上に置かれた植木鉢に咲いている花の密を吸いながら町の様子を眺めているようだった。
「チュチュー。チュチュー。
 石っころになった人間を眺めながら吸うミツの味はサイコーだな」

そういうのを「他人の不幸は密の味」って言うんだ。まんまだな。
と言ったら、奴が驚いて振り向いた。
「ンキキ!お前達人間だな。まだ石になっていないヤツがいたなんて驚きだぜ!
 キキキ。花のミツほど甘くはないが、人間の血もなかなかのモンだそうだ。エサとなってもらうぞ。覚悟しろ、キキ!」

いや全然味違うだろ。ていうか血の味知らねえのかよ!
とすげえ弱そうな相手なもんだから悠長に突っ込んでしまった。
「あいつを倒せば町の人達が元どおりになるんじゃないかしら」
「まさかこの魔物が町の人間を石にしたってのか。なんか信じられないな……」
そんな簡単にいく訳ねーだろお前ら。まあ何であれ、向こうがヤル気なら迎え撃つまでだ!

勝負は当然俺達の勝ち。 あー弱かった予想通り。
ボコボコにしばかれて、魔物(あめふらし、という名前らしいがもう死ぬのでどうでもいい)は消え入りそうな声でこう言った。
「キキイ…、油断したぜ。けどオレを倒したくらいで人間どもにかけられた呪いがとけると思うなよ。ザマアミロ、ここの人間どもは永遠に石っころのままだ!キキキ…」
そして消滅する。
「そんな〜。あいつをやっつけても町のみんなは元に戻らねえのか」
「ふん。ザコのくせに減らず口をたたきやがって。オレだってそう簡単にこの町の呪いがとけるなんて思っちゃいないぜ」
言うようになったねバカ王子君。
「早くしてよアナゴン。みんなの呪いがとけないと永遠に買い物できないのよ!」
お前はホントーに本音しか言わねえな!
こうなったら、こいつを使ってみるしかねえか。俺はふくろの中から、ダイアラックでクレマンから貰ったアイテム「天使の涙」のビンを取り出した。まだちゃんと残っている。
ダイアラックの時は石化してから50年もの時が過ぎ、ヨゼフ以外の石像は皆屋外に放置状態だった。そのせいで石像は雨風にさらされて朽ち、俺達が天使の涙を使っても人間に戻る事はなかった。でも今度は大丈夫だろう。町中の石像を見てまわったけど、どれもこれも風化している様子は見られなかったからな。
俺はビンのフタをとり、屋敷の屋上から天使の涙を振りまいた。天使の涙はキラキラ輝きながら町中に広がり、ゆっくりと降りていった。
すると、空を覆っていた闇がサアーっと晴れ渡り、太陽が現れた。町の中も明るくなり、どうやら本来の姿を取り戻したような気配が漂ってくる。天使の涙が効いたんだ。
それじゃあ俺達の役目はこれで終わりか?ひとまず、町の皆が元に戻れたのか確かめてみるとしよう。



「くぅ〜頭がクラクラする。くそう、どうしたってんだ」
屋上から降りて来た俺達。屋敷の2階に、廊下の窓から外を覗いているターバンの男がいるのを見つけた。さっきここを通って屋上に行った時こいつは石だったんだが、すっかり元に戻っている。こりゃ他の皆も大丈夫そうだな。
「はっ、そうだ。そうだった!オレはペペを見ていたんだ。ペペの奴、オレのリンダにちょっかい出しやがって……」
俺達の存在に気付かず、そいつは外の様子を険しい顔で見ながら一人でブツブツ言っている。どうやら石になってたって事を本人は知らないみたいだな。そういえばヨゼフの時もそうだったっけ。
「げげっ、リンダの上にペペがのっかってるぞ!リンダを襲うなんてペペめ、気でも狂ったか」
何も知らないその男は拳を握りしめながら、猛スピードで階段を駆け降りていった。
そういえば外の庭には、男と女の2体の石像があったよなあ。ペペとリンダってそれの事なんだろな。まあ何でもいいけど。
「ねえ、聞いたあ?オレのリンダだってさ。面白そうな予感がするわ。さあ、アナゴン。さっきの人を追い掛けるのよ!」
なんでだよ!興味ねーよそんなの!
俺は他の奴の様子を見て回りたいので、マリベルの要望に答える気は全くなかった。やる事はやったし、無事片付いたんだったらさっさと次にいきたい。

しかしその願いも空しく、この後俺達は否応なく「複雑に絡み合った愛憎劇」ってヤツに関わる事になっちまうのだった。
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