遅かった。フォロッド城では既にエリーの解体作業が行われていたのだ。身体をいくつかのパーツに分けてしくみを調べるつもりなんだろう。俺達が王の間に駆けつけた時には、エリーは足部分を外されて動けなくなっていた。
なりゆきを見守っていたアルマンがたまらず叫ぶ。
「なりませぬ国王様!お願いですからエリーを元の所へお返しくだされ!」
「エリーだと!?このからくり兵はエリーというのかアルマンよ!」
俺がアルマンの言葉に反応する前に、フォロッド王が声をあげた。
「これは驚いた。アルマン、そなた私に何か隠し立てをしておるな!そういえば先程禁断の地に向かう時から様子がおかしいとは思ったが…」
俺も何かあるとは思ってたけど、やはりアルマンはエリーの事を知ってたんだ。それも随分詳しく知っているとみた。
「いたしかたあるまい。大臣、衛兵をこれへ」
すると何を思ったのか、王様は兵隊を一人呼び出した。
「お呼びでございますか!」
「アルマンを地下牢に連れていけ」
なっ!?
「ア、アルマン様をでございますか!?」
呼ばれてやってきた衛兵は、王の下した命令に耳を疑う。俺達も同様だ。どうしてアルマンが投獄されなきゃなんねえんだよ!
「そうだ。そなたの聞き間違いではない。アルマンを地下牢へ連行するのだ。気の毒だがアルマンよ、しばらく城の地下で待っていてもらおう。今は一刻も早くからくり兵の謎を解きあかしたいのでな。そなたからは後でゆっくりと話を聞かせてもらうぞ」
平然と言い放つ王様。その言葉にアルマンは素直に頷き、兵士に伴われ地下牢へと降りていった。そして王様と学者達は、再びエリーの解体にとりかかるのだった。
まったく、考え方が新しくて柔軟な王様だと思ったけど。目の前に餌がありゃとたんにそれ以外何も見えなくなっちまってやんの。よりによって恩師を牢にブチ込んじまうなんてな。ちゃんと人の話聞けっつーの。
王様にはもう何を言っても無駄なので地下牢のアルマンのとこに行った。牢には王様のいいつけで鍵がかけられてなかったので、アルマンとは容易に面会できた。
「いやはや、かたじけない。すっかり貴方がたには迷惑をおかけしましたな。その迷惑ついでと言っては申し訳ないのですが、わがままを聞いてくださらんか」
本当にわがままだな。と条件反射でツッコむ所だったが黙って頷く俺。俺達もここまで来ちまったし、このまま放っといたらこの国を救った事にはならないような気がするからな。どうせならとことん付き合ってやろうと思ったんだ。
「なんとありがたい、感謝しますぞ!実はあのからくり兵は、はるか昔にわが一族のゼボットという者が造ったものなのですじゃ。未だにエリーはゼボットが死んだ事が分からず主人の亡骸に尽くしておった。それを知った時わしは心に決めましたのじゃ。そっとしておいてやろうと…」
成る程。どうりでこいつ一人だけが事情に詳しいと思ったけど血縁者だったのか。ただのハゲジジイかと思ってたけどよく見ればゼボットに顔も似てるし。
それにしても、主人であり弟子でもあるフォロッド7世のたっての悲願ですら遠ざけちまうほどの決心をしてたなんてな。
「詳しい話はともかく!何とかエリーを元の家に返してやりたいのですじゃ!しかし部品を抜かれエリーは歩けない…。そこでお願いなんじゃが、フォーリッシュからエリーの部品を取って来てはくださらんか。人に知られるとまずい。場所は孫娘にに聞いてくだされ。頼みましたぞ!」
で、取って来ました。速いとかいうツッコミは不可だ。
見張りの兵士の協力を得て、変装したアルマンと共に牢を脱出した俺達。研究室に行ってみると学者が一人だけいたが、俺達が入って来たのを見ると留守番を頼んで飯を喰いにいってしまった。何にせよこれで邪魔者はいなくなったって訳だ。そして床には部品を抜かれ、動けずに倒れふしているエリーの姿が。
「おおっエリー!!可哀想に。今助けてやるからな!」
と言いながらアルマンは、俺達が取って来たからくりのパーツを手際よくエリーに取り付けはじめた。…ひょっとして、城の学者なんかよりこのじじいの方が全然優秀なんじゃねえのか。
「これでよし!立ってごらんエリー」
「ビュッ ビュビュッ! すーぷ サメタ…。ぜぼっと ドコ?」
あっという間にエリーを治してみせたアルマン。エリーは無事に立ち上がる事が出来た。しかしアルマンの姿を目にした時、エリーの様子が変わった。
「ぜぼっと!? ぜぼっと オキテハイケナイ。ゼボット びょうき…」
どうやらアルマンの事をゼボットだと勘違いしたらしい。お前さっきまで白骨だった奴がどうやったら生きてるじじいになれるんだよ。死っつーもんを認識できないってのはやっかいな事なんだなあ。などと呑気に突っ込んだりしてる場合じゃない。エリーがアルマンにじりじり迫り、アルマンは壁際に追い詰められてしまったのだ。
「違う。違うぞエリー。わしはゼボットではないんじゃ!」
「ぜぼっと ビョウキ。ウチニ ツレテカエル。 すーぷ ノマス」
「こ、これ!違うというに。間違いなんじゃ、エリー」
アルマンが必死に否定してもエリーは聞かない。完全にアルマンをゼボットだと認識しちまってるようだ。からくりってのは融通きかねーんだな。
どうしていいか分からず成りゆきを見守る俺達。その時タイミング悪く、研究室に王様達がやってきたのだ。
「アルマン!そなた地下を抜け出しここで何をしているのか!?」
すかさず飛ぶ王様怒りの声。しかしアルマンはそれどころじゃない。今にも自分をつかまえようとするエリーの腕から逃れようと必死なんだから。
「からくり兵がアルマン様を!」
「アルマン様が危ない!」
その様子を、アルマンがエリーに襲われていると勘違いした(無理もないが)王様おつきの兵士達。剣を抜くと、エリーの背中に斬り掛かった。っておいおい!
「むっ!待て!剣を引けい!そいつはアルマンを襲っている訳ではない!ええいっ引けというに!」
何かに気付いたらしい王様が怒鳴った。兵士達が剣を引くと、エリーは再び床に倒れた。
「エ…エリー!?エリー!!」
「しまった!やってしまったのか!?アルマン、無事か!」
「エリー…」
アルマンは無事だ。でもエリーが無事ではないようだ。アルマンは消沈しながらも、倒れたままピクリとも動かなくなってしまったエリーの損傷箇所を調べている。王様はそんな二人を見下ろしながら静かに口を開いた。
「アルマンよ。このからくり兵はそなたを襲っていた訳ではあるまい」
「はい、国王様…」
「おそらくは、あの小屋にいたこやつの主人とそなたを間違えたのであろう。すまぬ、アルマン。私にも全てが分かった。このからくり…いや、エリーはもうからくりなどとは呼べぬ存在なのであろう。このエリーの主人に対する一途な思い。我々の方が学ばねばならぬ。アルマン、直せるか?直してやれるか、エリーを!」
「はい、国王様。おそらく。」
「よしっ皆の者!エリーを元いた小屋へ運ぶのだ!」
思わぬハプニングを経て、驚異的な理解力を見せる王様。なんか俺達ただ見てただけって感じなんだけど、どうやらこのまま事態は丸く収まりそうな感じだ。
帰れたとしても、エリーは二度と動かないゼボットの世話をし続けるだけなんだけどな…。
いや、どうにも俺には、それがいい事だとは思えないんだよ。エリーは元の場所に帰るのが一番だってのは分かってるんだけどさ。どうにも割り切れないっていうか。
ゼボットの研究所で見た光景を思い出して、俺は複雑な思いのまま皆と城を出た。
「ふう。さて、これでいいはずじゃ。エリー、起きてみなさい」
「ビュッ ビュビュッ!」
あれから皆でエリーを研究所まで運んできて、アルマンはエリーを修理した。今度も無事に起動する事が出来たようだ。
「ぜぼっと ネテイル!アタタカイ すーぷ ツクル。 ぜぼっと ゲンキデル」
エリーはベッドに横たわる屍を認めると、ゼボットのために早速調理機の前に立つのだった。
それを見届け、王様は俺達に向き直って言う。
「これでよしと。元に戻った訳だ。アルマンよ、そしてアナゴン達よ。すまなかったな。我が夢のため、そなた達には何かと迷惑をかけたようだ」
まったくだ。
「といって、私の方針は間違ってはいない。エリーの事は諦めるとしても、からくり人間を諦めた訳ではないのだ。先人の知恵を借りずとも必ずや成し遂げてみせよう!その日が来たらエリー、お前の友達を造ってやるぞ。楽しみに待っているがよい!わっはっは!」
そして王様は高笑いと共に颯爽と去っていった。何があっても自信満々だな奴は。まあ、いい王様だったという事は実感できたし、奴が王位にいる間はこの国の未来は明るいかもしれないと思った。いろんな意味で。
「いやはや全く、何とお礼を言ってよいやら。皆さんには旅の途中すっかり手間をかけさせてしまい申し訳ありませんでしたな。お時間があるようでしたら旅立つ前に是非我が家に寄りくつろいでいってくだされ。本当にありがとう。色々世話になりましたな。ではお先に失礼しますぞ」
アルマンが深々と頭を下げる。いやいや、今回の事は俺達の使命でもあったしな。ほとんど見てただけだけど。
「エリーよ、良かったな。これから先は誰にも邪魔されずに静かに暮らせるはずじゃ。それもこれもみ〜んなあの方達のおかげじゃて。お前さんも感謝するのじゃぞ。ほっほっほ」
エリーの背中にそう声をかけ、アルマンも去っていった。
「よかったわねアナゴン!エリーも元の所にちゃんと帰ってこれたわ!」
「よかったなあ、アナゴン。オラなんだかとっても嬉しいぞ」
「これにて一件落着かな」
まあ、そういう事になるんだろうな。
皆の喜びに水をさすのは嫌だったので、俺だけ未だに釈然としないなんて事は黙っていよう。これから先、エリーの献身がいつまで続くのか。何を生み出すのか。それはエリーにとってゼボットにとって、本当に幸せな事なのか。最後の最後まで、俺は分からないんだな…。
ふと、スープを作っていたエリーが呟きをもらす。
「アタタカイ すーぷノメバ ぜぼっと ゲンキニナル。 オイシイすーぷ ツクル。
ア…リ…ガ…ト……ウ。えりー ウレ……シイ………」
俺達は一瞬耳を疑った後、沸き立った。
「き…聞いたかアナゴン!今エリーが!!いや…オレの気のせいかな?」
「アナゴン、聞いた?エリーが、ありがとうって、嬉しいって! 信じられないわ…。もしこれが神様のいたずらだったら、とっても素敵ないたずらだわね!」
「うひゃあ!今たしかにエリーがありがとうって言ったぞ!エリーも人間みたいに嬉しいとか悲しいとか感じるようになったんだな!」
答えが、出た。エリーが出してみせた。
俺の胸のもやもやはエリーの一言で一気に消し飛ぶ。そして今、完全に理解できたんだ。
二人は幸せなんだ。これで良かったんだ、と。
|