復活した土地に来た時は、過去に攻略したダンジョンにもう一度潜る。何故なら必ずそこには石版のかけらがあるからだ。それは大抵、次の土地へ行くために必要になるものだったりする。なので必ず回収しておかなければいけない。
神の山は、ついさっき過去の世界で潜ったばかりだから特に迷う事なく進めた。やはりモンスターは消えていなかったが特に問題はない。適当になぎ倒しながら、俺達は魔封じの洞窟まで辿り着いた。
入り口の岩戸は閉まっていたが、引いてみたら簡単に開いた。中からは絶対に開かないって話だけど、外からならこんなにアッサリ開いちまうってのも問題だと思うぞ。
洞窟の中は、魔物を封じ込めた時とまったく変わっていない。魔力が封じられた空間に、大きな石の棺がひとつ。
ここまで来て石版が見当たらないって事は、やっぱり……。
なんて考えていると、突然棺の中から無気味な声が聞こえてきた。
「何者だ……。この私を眠りから覚まそうというのか」
いや。
「では、再び眠るとしよう……」
そして声は消えた。
どうやらまだ、あのサンバデアミーゴとかいう魔物はバッチリ生きてるっぽいな。
おそらく石版はこの棺の中にあるんだろう。魔物を起こすのは面倒だが、こうするより他にない。俺は石の棺をドガンと蹴った。
「何者だ……。この私を眠りから覚まそうというのか」
おうよ。
「本当にこのわしを眠りから覚まそうというのか。本気なのだな?」
しつけーな。いいから起きろよ。
開きかかっていた棺のフタを、俺は完全に開け放つ。同時にメンバー全員で身構えた。
起きたって倒しちまえばいいんだ。こっちは4人になったし、前よりも若干強くなってるからたぶん勝てるだろう。
「クックック……。ワシを起こそうとはいい度胸だ。だが命は大事にした方が…」
…あれ。
中を覗き込んで、俺はぎょっとする。
棺の中にいたのはあの魔物の姿はなく、代わりに汚らしい男が一人横たわり喋っているだけだった。なんだこいつは。
そいつは俺達と目が合うと、驚いたように飛び起きた。
「ややっ!あ…あなた達はあの時の!?」
はい?
「わたしですよわたし!覚えてません?ほらっ!やだなあー。昔ここで皆さんと戦った、ここの魔物ですよ!」
はいい?!
ボロボロの服まとった、髭も髪もボッサボサの一見浮浪者なこのオッサン。こいつがあの魔物だってのか?
言われてみれば声とか顔とか面影があるような気がしないでもないが。でもどーみても人間じゃねえか。
「あん時はわたしエラそうに背中に羽なんかはやして、ぐはははとか言ってましたしね。まあ、分からなくても無理はないですね、へへ。 あの時魔力を使い果たして長い事この中で寝てたらこんな姿になっちゃったんですよ。バチが当たったんですかね。もうすっかり普通の人間になっちゃいました。とほほ…。誰かにいじめられると怖いからこうやって隠れて、来る人をおどかしていたんです」
なんかもう、どこからツッ込んでいいのか分からない。俺は黙ってそいつの話を聞くだけだった。
ていうか魔力を封じて長い間放置しておけば、魔物は人間になるのか?!そういうもんなのか?!わっかんねーよ魔物!!
などと俺が一人で混乱していた時。
「ややっ!そこのぼっちゃんは!伝説の白いオオカミさんでしょ!」
自称魔物の浮浪者は、ガボを見るなり声をあげた。
「ああっ、やっぱりそうだ!あの時は私のせいでそんなに醜い姿にしちゃって、本当に御迷惑をかけました。 そうだ!今からでも遅くない。もう一度元の姿に戻してさしあげましょう!」
え?
「ガ…ガボッ!!」
ガボは明らかに嫌がっている。
「ちょっとあんた!余計な事しなくていいんだってば!」
「いやいや、遠慮なんかいりませんよ。私が悪かったんですからね。それじゃあいきますよ。もどれもどれ元の姿に〜!でやあ!!」
そんな呪文で元に戻るんかい!
浮浪者の指先から青い光が放たれる。それはゆっくり移動して、ガボを包み込んだ。
しかし、それだけだった。ガボは元のオオカミの姿には戻らず、人間の姿のままでいる。それを見て、浮浪者は首をかしげた。
「あ…あれれ!?変だな。元の姿に戻りませんね…」
「こらーっ!オイラこのままのカッコでいいんだってばー!余計な事するとまた閉じ込めるぞー!」
そんな浮浪者に、ガボの非難の声が……って、あれ。
自らに起こった異変に、ガボは飛び上がった。
「オ…オラ、どうしたんだ?急に喋れるようになっちまったぞ!?」
悟空。
という謎の人物の名が、何故か一瞬頭をよぎった。
マリベルは普通に驚く。
「ガボ、あんたペラペラ喋ってるわよ。何がどうなったの一体!?」
浮浪者は、頭をかかえながら一人悶えだした。
「くああっ!何て事だ!長い時間が経つうちに、私の魔法までさびついてしまったのかあ!元の姿に戻すどころか、ますますガボさんを人間に近付けちゃいました!とほほ…。 私ってもう何の役にも立ちませんね…」
そしてうなだれる。しかし当のガボは何やら嬉しそうだ。
「オイラこれがいいぞ!すっごく嬉しいぞ!これでアナゴン達とちゃんと話が出来るようになったんだもんな!わーい!しゃべれるしゃべれるー!ひゃっほー!」
「ガボ……あんたって実はお喋り…だったの?」
一人はしゃぎまくるガボを横目に、マリベルがあきれ顔で呟いた。
「あ…、なんか喜んでもらえました?よ…よかったなあ。
じゃあこれもあげちゃいます。特別プレゼントです!はい!」
俺は立ち直った浮浪者から、青い石版を受け取った。やっぱりここにあったか。
「よく覚えていないんですけど、たぶんそれって皆さんが必要なものだったんでしょ?私が魔物だった時にこの棺の中に隠したようなんです。どうぞお持ち下さい。その石のかけらが何かの役に立つといいですね!」
こうして俺達は無事に石版を、ガボは人語を話す力を手に入れたのだった。
ガボの事は、コミュニケーションが取りやすくなったって事でよしとしよう。本人も喜んでるし。
しっかしあの浮浪者…。時間の流れってのは怖いよな。魔物だった頃は姿こそは間抜けだったものの、それなりに迫力みたいなものはあったぞ。それなりに。
「まだ昔のほうが骨があってよかったわよ!何この軟弱さは!」
とマリベルも御立腹だ。
まあ、もう会う事もないだろうから…。さっさと忘れて次の冒険に出かけるとしよう。
と、その前に。俺達はシムじいの様子を見に、フィッシュベルから北の小島にやってきた。あれからどういう訳か、行く先々で「人生をやり直したい」だとか「自分の店が欲しい」だとかいう理由でよその土地に移り多たがっている人(まれに動物)と出会うので、そのたびにここの事を教えていたのだ。こんなさら地を人に勧めるのもどうかと思うけどな…。
「おおっ皆さん!お待ちしておりましたぞ!」
俺達がその土地に一歩入るなり、シムじいが駆け寄ってきた。
「どうですかな。少し見ないうちにこの町の様子も変わったじゃろ。移民してきた人達の頑張りで着実に町らしくなってきおったわい。」
見渡すと、何もなかった土地にテントがぽつぽつと建っている。地面も所々舗装されているみたいだ。どうやら俺に勧められてやってきた人達の働きらしいな。きっと最初はあまりの何も無さに愕然としたんだろうな。ははは。
「だからわしはそろそろ町に名前をつけようかと思うんじゃ。それでわしは夜も寝ずにナイスな名前を考えた」
きっと昼に寝てたに違い無い。
「では発表するぞ!アナゴンバーグ。どうじゃ、気に入ったか?」
やだ。
「うーむそうか。ではこれならどうじゃ。アナゴンブルク。今度はバッチリじゃろ。気に入ってもらえたかな」
却下。
「ふぉっふおっふお…。そう答えると思って、本命は最後までとっておいたんじゃ。じゃんじゃかじゃ〜ん!ほんじゃ発表するぞい。アナゴンガルド!!! ふふん、文句のつけようがないくらいナウイじゃろ」
消えろ。
「な、なんとこれもダメか」
まったく。突っ込む気も起きんわ。話にならねーな。
「なら皆さんがこの町の名前をつけてくれんかのう。ここに人が集まったのも皆さんのおかげじゃから、名付け親になってくれんかのう。ふふふ、嫌とは言わせんぞ。わしの名前をみ〜んな蹴ったんじゃからな」
うーむ、そう来たか。
俺は誰にも相談せず、0.05秒の速さでこの町の名前を考えて決めた。俺の好きなロックバンドの歌から、丁度響きのいいフレーズをそのまま持って来ただけなんだが。
というわけで命名「せきららゴーゴー」
「せきららゴーゴーか……。とてもわしでは考えつかないステキな名前じゃのう」
はっはっは、町の名前としては最悪だけどな。
ていうか本当にステキだと思うのかお前。
「では今からこの町の名前はせきららゴーゴーに大決定じゃ」
いいのかよ。
シムじいの思いきりの良さに少々退く。
でもまあいいか。別に俺が住むんじゃねえし。
「それともひとつ…。今後わしに様がある時は、この町の近くにある小屋を訪ねてくだされ。やはり力仕事となると、年が年なので体にこたえるんじゃよ。じゃからこれからは町の世話役としての仕事に専念しようと思っとる」
町の外を見ると、確かに小屋が建っていた。小屋とはいってもかなりの大きさだが。このじじい、もしかしてあれ移民に作らせたんじゃないだろうな。だとしたらこいつは鬼だ。
「皆さんは引き続き、町に人を集める役を続けて下され。では皆さん、お互い
せきららゴーゴーの発展のために力を尽くしましょうぞ」
なんかやだな。
といった経緯で、この移民の町はさらなる成長を目指す事になったのだった。
さあ君も素敵に甘美な蟻地獄「せきららゴーゴー」で新たな人生始めてみないかい?
よその人間から後ろ指さされるかもしれないが。
|