どうでもいいが、この魔物の名前は「デス・アミーゴ」というらしい。カッコだけじゃなくて名前までおめでたい奴だ。だいたい「デス」は英語で「アミーゴ」はスペイン語だろ。
なんて突っ込んでる場合じゃなくて。こいつの攻撃はかなり痛い。一度に2回も攻撃してくるし、かまいたちなんて技も繰り出して来る。おまけに怪光線なんか発射するもんだから目がくらんで仕方ない。
それだけならまだしも、ここの場所は魔法が使えないのだ。さすがは「魔封じの洞窟」と呼ばれているだけある。ここまで律儀に魔封じだとは。おかげで回復もできなくて戦いにくいぞ。
でも薬草はそれなりに持ってるし、きこりのおっさんも参戦してくれている(戦力にはなってないけど薬草使ってくれるのだ)。ここはいっちょ、向こうがブったおれるまでひたすら全員でボコるのみだ。
そうしてボコっているうちに、デス・アミーゴは体力尽きて倒れた。今回はレベルの事もあってどうなるかと思ったが、ギリギリで勝てたって感じだ。その証拠にこちらのダメージも相当なものだ。
とその時、倒したと思った奴の体が宙に浮き出した。げげ、まだ動くのかよ!
「こ…これしきでこのオレ様を倒したなどと思わぬ事だ。油断はしたが、本番はこれから。さあ!お前達も皆動物に姿を変えてやるわ!」
何い、それは困るぞ!せっかく倒したってのにそりゃねえだろ。
ていうかそーいう芸があるなら最初から使えよな。いや使われても嫌だが。どーもこういうツメの甘い部分は突っ込んでおかなきゃ気が済まねえんだよな。
…だから言ってる場合じゃなくて。
などと俺が呑気に自分に突っ込んでいると、突然あの子供がデス・アミーゴに飛びかかった。俺達がアっと思った次の瞬間には、子供は奴の頭にガブリと噛み付いていたのだ。
「ぐあっち!この小僧め、何をする!そんな事でこのオレ様を……ぐっ!?」
そしたら、魔物(デス・アミーゴと呼ぶのは鬱陶しいのでこう呼ぶ事にした)の様子がおかしい。
「か…体がし……しびれる!?か…体が言う事を聞かん」
浮いたまま、俺達の上を過ぎて棺の上まで移動する。まるで何かの力に動かされているように見えた。
「こ…こんなマネができるのは、白いオオカミだけのはず。 ぬっ!?まさかこの小僧は!そうか!あの時町の人間と一緒にオレ様の魔法で姿を!? ぐははは!こいつはお笑いだ。自分でしでかした事と気付かぬとは、オレ様もまぬけな事よ。貴様は白いオオカミ。おそらくあの時倒しそこねたチビに違いない!」
一人で驚いて納得して笑ってと、忙しい奴だ。
えーとつまり、この子供はお前の魔法で人間の姿になった白いオオカミだってんだな。高速でそう解釈する俺。
棺の上の魔物は、これ以上ない程の憎しみを込めた目で子供を睨み付ける。
「き……貴様だけは……貴様だけは許すものか!この先ずっとその醜い姿で暮らすがいい!でやあっ!」
魔物の手から放たれた青い光が、避け切れない子供を直撃した。
「ぐはっ…は……がふっ!」
そして今度こそ魔物は力尽き、棺の中へと落ちていった。
「アナゴン今だよ!この石の蓋を閉めちまって、もう一度こいつを封印するだ!」
抜け目がないねえおっさん、任せろ!
俺達は重い石の蓋を動かし、棺を密封した。
すると、棺を中心に真っ白な光が洞窟内にバアーっと広がる。魔物の封印に成功したんだ。
こうして、この事件の元凶は断たれたのだった。
「クゥ〜ン、クン。ワウォ〜ン」
「そうかい、そりゃ大変だったなあ」
光がおさまり、ようやっと目も慣れて来た所で、きこりはオオカミの話を俺達に訳して聞かせた。
「その昔、魔物との戦いで生き残ったたった一匹の白いオオカミってのは、その子の母親だったんだそうだ。だどもこの子を生んですぐ、その時の戦いの傷がもとで亡くなったんだそうだよ。まだ目も開かない子供のオオカミを、このメスのオオカミが親代わりになって育てたんだとよ。くぅー、泣かせる話じゃないかよなあ」
さっきも思ったんだけど、あれだけ鳴いただけで本当にそんな長い事言ってるのか?
と、どうしてもツッコミが先に来てしまうのは性分だ。許せ。大変でしたね。
「そんでよ。えーと、何てったっけか。この子の名前は……」
「ガボ!」
うぇ?
突然あがった子供の声に、思わず皆で一瞬固まった。ていうかそれ名前ですか?
「こいつは驚きだぜ!さすがは伝説の白いオオカミだ。人間の言葉をしゃべれるのかい?」
感心したように言うキーファ。子供はそれに笑顔で答えた。
「ガボ!」
…違うらしい。
「なーんだ、それだけかいな。誉めて損しちまっただなや、わっはっは! 白いオオカミもいいけんど、今の姿もなかなかお似合いだあよ、ガボ」
「ところでさっきの魔物は一体どうやって封印を解いたんだろうなあ?とにかく町がどうなったか、早く戻ってみようぜ!」
ああそうか。ガボのインパクトで、つい町の事を忘れちまってたわ。
町に戻って来た。辺りがすっかり明るくなっている事からも解るように、どうやら問題は解決したようだ。
…と、ガボとオオカミが突然町の中へ走り去ってしまった。
「あっ!おい、待てよ。どこに行くんだよ! まったく、すばしっこいんだから」
まあ、あの俊足共は置といて。俺達は俺達で町の様子を見て回る事にしよう。
俺達が来た時は町中動物だらけだったが、今度は人間だらけ。つまり無事元に戻ったって事だな。
町の人達は、動物にされていた間の記憶はないものの、自分がなっていた動物の習性が残っていた。鼻が効いたりとか、手を使わずに物を喰ったりとかだ。そんなに長い間動物だった訳でもないと思うんだが、まあ見てて面白かったからいいや。
喋れない人間だった奴らも動物に戻っていた。戻った事で、本当に犬やら馬だったんだなと改めて思った。
それと今になってやっと知ったが、この町の名前はオルフィーというらしい。看板くらい出しとけよなまったく。
町の奥にある裕福そうな家はやはり町長の家だった。そこの長老にだけは、この町で何が起こったかを話して聞かせてやった。誰にも知らせないで帰るのは気が引けるしな。
長老は驚きはしたものの、俺の話を素直に信じた。そしてこう言ったのだ。
「神の山の封印の岩戸は、中からは絶対に開けられぬはず。だとすれば…、何者かが外から扉を開け、魔物の封印を解いたという以外に答えは見つからんのです。あの魔物をあやつるような別の存在があるのか無いのか。この事件の裏にはまだまだ重大な謎が隠されているようですな!」
最後に、あの納屋を覗いてみた。ガボと初めて会ったあの場所だ。
そこには一人の農夫(おそらくウシだった奴と思われる)が、中をいったり来たりしている。
「おろおろ…。一体どこに行っちまったんだろう。いやあ、何日か前に町の外で大ケガをした白いオオカミを見つけたんだよ。この納屋につないで看病してやってたんだが、いつの間にか逃げちまってさ。ケガはすっかり治っていると思うけど、町の外は危険だから。ああっもう!心配だよ!」
逃がしたの俺達なんだけどな。
首輪が絞まってたのは、ケガを直す為だったんだな。そのまま人間になっちまったってたから、あの時は児童虐待だとしか思えなかったんだ。
納屋を出ると、納屋の窓から中を伺っているガボとオオカミがいた。
「ややっ、ガボッ!どこに行ってただね。ははあ、ケガを直してもらった御礼が言いたかっただな?」
「ガボ!」
「うんうん、なんて気の優しい子じゃねえか。 なあアナゴン。オラあこの子を引き取って一緒に暮らすだよ」
あらま。
「いくら伝説のオオカミとはいえ、この子は母親を亡くしてたったの一人ぼっちだ」
「ウォウォン!」
オオカミのツッコミが入る。やるな。
「ああ?そうだった。お前さんがいたっけな、すまんすまん。だどもガボはもうオオカミの姿には戻れねえだ。人間として生きていかにゃあ。なっ、これから二人ともオラと一緒に暮らすだあよ。」
「ガボ……いく……」
おお、今度こそ喋った。
「おおっそうかいそうかい。それじゃ早速出かけるとしよう。森のみんなもきっとお前さん達を歓迎してくれるだあよ!さあアナゴン、ぼちぼち帰るとしようかね」
ガボがこれから人間として生きていかなきゃならないんなら、言葉の解るきこりの側にいるのが一番いいかもしれないな。この土地から守り神がいなくなっちまう事にもなるが、 何より本人もそれを望んでいるようだし。これにて一件落着か。
こうして全て終わり、俺達は元の時代へと帰っていったのだった。
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