ダイアラックの闇が消えると同時に、地面の中から突如モグラのごとく現れた謎の子供。なんかよくわかんないけど話し掛けてみた。
…ら、このガキ。俺達に口を挟むスキも与えず一方的に喋り出した。
「あれ?お兄ちゃん達は誰?ボクの名前はヨゼフ。ねえお兄ちゃん、どこかで町のみんなを見なかった?おっかしいなあ……。さっきまで雨ごいの大人達がわいわい盛り上がってたのに…。もしかして何かあったのかな?ねえ、お兄ちゃん達は何か知ってる?」
別にお前の名前なんか聞いてねーよ。
しかしこの「ヨゼフ」という名は、たしかあの秘密基地をみつけた子供の名じゃなかったか。石像達の記憶の中にも何度か出てきてたし。
そういえば、ヨゼフの石像は見当たらなかったよなあ…。
とりあえず、このヨゼフと名乗るガキに事の次第を話して聞かせた。するとこのガキはまるでバカでも見るような目つきになって俺にこう言った。
「ええっ!?この町のみんなは石になっててそれから50年が過ぎてるだって?お兄ちゃん…、冗談ならもっと本当っぽい事言ってよね」
クソガキめ。親切に教えてやったのに何だその態度は。ていうか俺が説明してやった事をわざわざ復唱せんでええわ。
「しかし…本当に誰もいない感じだなあ。とにかく皆を探そう!お兄ちゃん達もちょっと手伝ってよ」
やなこった。
と即答してやったが、自称ヨゼフは聞く耳もたず勝手に俺達の後についてきやがった。ムカついたので木にでも縛り付けて帰ってやろうかとも思ったが、幼児虐待になってしまうのでやめた。大人だぜ俺。
ガキが出て来た地下室で黄色い石版を入手した後、俺達はクレマンじいさんの所に戻った。ダイアラック唯一の住人はこのじじいだからな。
「旅の方よ。どうやら先程天使の涙を使われたようですね……。かすかにそんな香りがしました。それはそうと何やら急に辺りが明るくなったような気がしますが……。わしの目もいよいよおかしくなってしまったのかもしれませんな……」
そんな事はどーでもいいからじじいよ。このガキを何とかしてくれ。
「……そのおじいちゃん、だれ?」
ヨゼフはクレマンじいさんを見上げ、不思議そうに訪ねた。
そしてその声に、じじいは過敏に反応したのだった。興奮気味にガキに詰め寄る。
「た……旅の方よ。その少年は一体!? い…いや、答えんでもええ!その声…その姿…、確かに見覚えがあるぞ!たしか酔いどれキーンのせがれ……。名はたしか…、ヨゼフといったか!?」
「ん…そうだよ」
ただならぬじじいの迫力にかなり引きながらヨゼフが頷く。じじいはそんなヨゼフの肩をわし掴みにしてさらに迫った。
「お…お前……、一体今までどこにおったんじゃ!?」
「地下の……ひみつきちだよ」
震える声で答えるヨゼフ。眼前のじじいの顔がよほど怖いらしく、泣きそうになっているのが笑えた。
じじいはといえば、そのヨゼフ以上にわなわなと震えている。どうやら感動に打ち震えているらしい。
「地下……。そうか……、それで今まで風にさらされず、姿は無事なままで……。旅の方!奇跡だ!町は…町はまだ死んでなどおらんかったのだ!」
と言っていきなり今度は俺に迫ってきた。うわ怖っ!
「これもあんたらのお陰じゃ!あんたらが諦めずに天使の涙を使ってくれたから……。心から礼を言わせてくだされ!この年寄り、今日ほど嬉しい日はありませんぞ!今宵は祝杯をあげましょう!さあ旅の方!ともに新しい町の命を祝ってくだされ!」
まさにじじい復活の瞬間だった。ヨゼフが蘇った事であっという間に元気になった(なりすぎ)クレマンじいさんに言われるまま、俺達はその夜祝杯をあげた。
そしてヨゼフはじじいや俺達の説明をうけ、自分が50年以上もの間石になっていた事、町の人間はもう戻らないという辛い真実を受け止めたのだった。
そして翌朝。
ダイアラックの町の入り口で、俺達はクレマンじいさん、ヨゼフに見送られた。ヨゼフはクレマンじいさんが引き取る事にしたらしい。
「まったく皆さんには何と礼を言ってよいやら。言葉が見当たりませんな。皆さんが行かれたら私達も後からすぐに旅に出ようかと思っております。そして、灰色の雨という存在を知らずに生きる者にその恐怖を伝えて歩くのです。それによって尊い命がひとつでも救われるなら、私の人生にも意味があったと思えましょう。そして、灰色の雨の語りべとして旅をしながら……。出来る事ならこの町の人々を元に戻す方法を探して歩くつもりです。 この地に人はいなくなりますが、町の命とは場所を守る事ではないでしょう。私とヨゼフが生きていれば、同じように町の命も生き続けるのだと思うのです」
うーん成る程。最後にいい事言ったなこのじじい。と素直に感心してしまった。さすが50年以上も生き地獄を味わっただけあって、言葉に深みがあるぜ。
じじいと子供の二人旅は大変だろうが、失った時間を取り戻すため、蘇った町の命のために歩き続けていくんだろうな、きっと。
なら、ダイアラックの問題は解決だ。円満にいかなかったのが残念だけどな。
ダメもとで使った天使の涙が招いたこの結果。やっぱり、俺達にはちゃんと出来る事があるんだ。
前よりも少し自信のついた俺達は二人と別れ、現代へと戻っていった。
で、早速復活したダイアラックへと直行したのだった。どのへんにあるのかと思ったら、フィッシュベルのすぐ下にあった。こりゃ潮の流れがマトモに変わるから親父達が難儀するかもな。
というわけでダイアラックへ…。クレマンじいさん達と別れてから何百年経ったのかは解らないが、町は無くなっていた。家屋や石像も全て消えていて、隆起した地形に雑草が生い茂っているさら地状態だ。ただ、あの変わった石柱だけは消えずにそこに残っていた。
そしてその石柱の傍らには、一人のじじいが遠い目をして佇んでいた。誰だあいつは?
「見てくだされ、この岩を。この岩のある町に住むのが永年の夢じゃった。」
話し掛けてみたら、じじいは全然聞いてない事を勝手に話しはじめた。だから誰なんだってお前は。
「昔、この岩を慕って集まった人々がここを中心に町を作ったという…。その伝説を頼りにここにまで来たというのに、町がないとは残念無念」
へえ。名前こそ知られていないものの、ダイアラックの事は今にまで語り継がれてたのか。クレマンじいさんの想いが生き続けてたって事は、同じように町も生き続けて来れたんだな。
「しかしもとより帰る家さえない身ですので、この土地に町を作ろうと決心しました」
そりゃまたダイナミックな決心だなじじい。本気かよ。
「じゃが、見てのとおり今だこの地にはわし一人。それで旅の方、頼みがあります。ゆく先々で新しい土地に移りたがっている人がいたらここを進めて下さらんか。人さえ集まれば、この地にも再び町が出来るはず!」
そういうもんなのか町って。
「わしの名はシム。シムじじいのこの頼み、どうか聞き入れて下され」
最後の最後にやっと自己紹介。うーん、まあいいけど。引っ越ししたがってる奴に会ったらここを推せばいいってだけなんだろ?
それでここにまた町が出来るってんならお安い御用だ。
そんなわけでダイアラックは、このシムじいと俺達によって新たな一歩を踏み出そうとしているのだった。
って事はつまり、この町が生きるも死ぬも俺達次第って事なのか。
いやあ、一体どうなるんだろうな。なんて人事みたいに思いながら、ここで入手した緑の石版を片手に今度は神殿に直行する俺達だった。
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