ドラクエ7冒険記 <さくさくDQ劇場

FILE:33「雨のプラネタリウム 街が泣いてる」
俺の気配に気付いたじじいが顔をあげた。
「おや、旅の方ですな。まだここにおられましたか。ならば御覧になってしまわれた事でしょう、石像達の光る姿を……」
俺は頷く。目には見えてないものの空気でそれを感じ取ったじじいは、表情を曇らせうつむいた。
石像達はそれぞれ、この町の事……、ダイアラックが滅ぶ様を俺に見せた。石像達の記憶を全て見終えた俺は、その足でこのじじいの所に来たのだ。その真意を確かめる為に。
じじいは昼間会った時とはまた違う場所に、たき火に当たりながら座り込んでいた。どうでもいいがこのじじい、いつ寝てるんだろう。
……なんていうつまんないツッコミは今はナシだ。これから俺達は深刻な話をするんだからな。
「あの石像達はおそらく私を恨み、ああして光を放っているのです……。この町の事を少しだけお話ししましょう。今からもう50年以上も昔の事です……」
そうしてじじいは、ゆっくりと語り始めた。

「この辺りは古くより雨が少なく、そのため年に一度、町人皆で雨ごいを行っていたのです。そしてその年の雨ごいの日…。私は遠く離れた町まで一人で買い出しに行っていました。その帰り道…、遠目に見えるこの町が、深い紫の雲に覆われていたのです。そして町には激しく雨が降っていました。ひどく濁った、灰色の雨が…。灰色の雨はすぐに上がり、私がここに着いた時には町の人々は今の御覧の有り様でした。町の人々は元の身体に戻りたいとさぞ願ったでしょう。可能なら、私もそうしたかった……。しかし、私はその町人の願いを叶えてはやれなかったのです…。いっそ私自らも石となり、ここで朽ちてしまいたいと…、今はただ、そう思うばかりです。
 灰色の雨は恐怖の雨…。多くの人々は今だこの雨の存在すら知らんのでしょう……」

ここまで話して、じじいは目を伏せた。
その独白は、石像達が俺に見せた記憶と同じものだった。雨乞いの日、突如降り出した灰色の雨に打たれた町人達は、なすすべもなく石化してしまったという。
そしてたった一人、それを逃れたこのじじい……クレマンは町人を救う事が出来ず、50年以上もここでずっと暮らしていたっていうのか。

クレマンじいさんにかける言葉も見つからず、俺は宿に戻った。
ベッドに潜り込んでもやるせなさは消えない。やっと降ったと思った雨に人生を奪われた町人達。親しい人間が、結婚の約束をした恋人が、生まれ育ったダイアラックの町がどんどん風化していくのを側で見ているしかなかったクレマン。その苦しみ、悲しみは俺には想像もつかない。
だいたい、何だってそんな雨が降るんだよ…。
この旅で俺は初めて、どうしようもない絶望感に苛まれていた。
ウッドパルナの時もエンゴウの時も、俺達は理不尽な力に打ち勝ってきた。でも今回のダイアラックはその方法が無いんだ。もう町の人は元には戻らない。この町は救う事が出来ないんだ。
…本当に、俺達は何も出来ないのか?


「ふわぁ…。夜のうちになにかあるかと思ったけど、何もなかったな」
翌朝(といってもやっぱり暗いんだけど)、 キーファが呑気にあくびをしながらぼやいた。こいつ、人の気もしらんでグースカ眠こけやがって。
「ねえアナゴン、あんた夕べのうち外に出たの?」
まーな。何があったかは道々話すよ。
沈むだろうけど。

俺達に何が出来るのか。答えが出ないまま、三たびクレマンじいさんの所へ行った。
「おお…、まだここに残っておられたとは…。そういえば天使の涙を手に入れた時にこんな話を聞きましたな…」
と、クレマンは聞いてもいない事をいきなり話し出した。
「天使の涙は空気に溶けてゆっくりと落ちていくものだとか…。これはどういう事なのか?例えば、高い所から……。
 いや、またムダな話でしたな。さあ、この地の事は忘れて、新たな地に向かわれるがよい」

自己完結すんなじじい、と突っ込みたかったが、昨日の夜聞いた話の事もあったんで黙っていた。まったくシリアスな展開は調子狂うよな。
…と、そういえば昨晩、行こうと思って行けなかった場所があったんだっけか。
石像の記憶の中に、この町のヨゼフとかいう子供が見つけた「秘密基地」とやらの入り口の事があったんだけど、夜だったから暗くて見つける事が出来なかったんだ。
今だったら見つけられるかもしれない。俺はキーファとマリベルを引き連れて、ヨゼフの秘密基地を探した。

ヨゼフの家の本棚に挟まっていた紙キレに書いてあった通り、とある木の下にその入り口はあった。よくこんな場所見つけたよなあ。ていうか、なんでこんな場所があるんだ?
…そういえば、この土地は昔戦地だったから、その時のものが色々出て来るって言ってたなあ。石像の記憶が。
つまりこの基地は、過去に戦争に使われたものなんだって事だな。こりゃあ子供のかっこうの遊び場だな。
なんて事を思いながら地下の秘密基地を探索した。薄暗い部屋には土の匂いが隠っている。壁に「ひみつきちその2」と拙い字で書かれたはり紙がある。おそらく発見者のヨゼフ少年が書いたものだろう。
基地を奥へ奥へと進んでいくと、突然視界が開けた。なんと、町のまん中に立つ不思議な石柱の上に出たのだ。石版の記憶では、この石柱は「お神岩さま」とか呼ばれて親しまれてたっけな。
しっかし、基地からこんな所に通じてるなんてな。戦争どうに使われたのかは知らないが、さすがに驚いたぜ。
石柱のてっぺんからは町全体が見渡せた。登ってみて実感したが、高いな結構。
……高い場所。
ふと、さっきのクレマンじいさんの言葉を思い出した。
石化を解くアイテム、天使の涙。こいつは高い場所で使う物らしい。
灰色の雨が降った後、ここでこのアイテムを使っていればダイアラックは助かったんだよな…。
俺はビンの蓋をとり、天使の涙を振りまいた。
今さら何にもならないだろうが、何もせずに帰る気にはなれなかったんだ。

天使の涙はキラキラ輝きながら、空気にまざりゆっくりと町中に広がっていった。
すると、町を覆っていた闇がスーっと引いたんだ。重苦しい雰囲気も消えていく。
そして空が晴れ渡ったと思ったら、突然むこうの地面の下から一人の子供が這い出て来たじゃないか。
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