夜になり、ほむら祭りが始まった。
村中のあちこちに松明が灯されているせいか、なかなか幻想的な雰囲気だ。昼間はあんなに殺風景なのにな。
大人も子供も家の外に出て、皆酒を飲んだり飯を喰ったりと祭りを楽しんでいた。どっかからダンサーの姉ちゃんまで呼び寄せてて、けっこう気合いの入った祭りなんだなーと思った。まあ、パミラ婆さんが祭りを取り止めろって言った時の村人達の反応からすれば、このくらい全然不思議でもないか。
「おうおう、おぬし達か。どうじゃ、わが村のほむら祭りは。楽しんでもらえとるかな?」
シラフじゃやってらんねえ。
上機嫌で酒の器を傾ける長老に、あっさり首を横に降ってみせた。俺だって呑みてえっつーのに、キーファの奴が「オレ達一応未成年だからな」とかぬかしやがってさー。なんでこういう時だけ固いかねこいつは。
長老は溜め息をついて、俺達を諭す。
「何じゃ。まだパミラの予言を気にしておるのか。やれやれ…。おぬし達も心配性じゃな。大丈夫じゃ。この祭りによって炎の神の怒りもじき治まる。大丈夫じゃて…」
そのパミラ婆さんは祭りには参加しておらず、あの占いルームに一人でいた。
「いよいよほむら祭りが始まってしまったな。そして祭りの最後、火送りの儀が行われる時、炎の山への道が開く。その時こそおぬし達の力を借りる時じゃ。心してかかってくれ」
やがて祭りも大詰めに。村人達は全員手に炎のともった松明を持っていた。この村で常に燃えさかっていたあの4隅の炎からうつしたものらしく、俺達3人も同じものを渡された。そして長老が皆に向かって、声高々に宣言した。
「さあ、皆の者!火送りの儀を始めようぞっ!」
火送りの儀を行う為の口上なんだろうか。やたら長ったらしい長老のセリフが続く。
「おお、我らがエンゴウの民があがめし炎の神よ。わが民を守りし聖なる炎、お返しする時が参りたもう。我らエンゴウの民、この炎を持ちて汝炎の神住みたる炎の山へ向かわん。願わくば、新たな炎の守りを我らに授けん事を…。メラギララ フレム フレアー……」
突っ込み所といえば最後の、火に関する言葉を寄せ集めて作ったような呪文(?)の部分なんだが。安直なんであえて黙ってよう。
「よし、皆の者。炎の山へ向けて出発じゃ!」
長老のその言葉で、留守番要員を残し村人達はいっせいに村の外へと出て行った。これから炎の山で「火送りの儀」という儀式を行う為に。
パミラ婆さんが言っていたまさにその時が近付いている。俺達も村人達の後に続き、炎の山を目指し歩き出した。
襲い掛かるモンスター共をなぎ倒しながら炎の山に着いてみると、山の入り口に通じる道に村人達がずらーっと一列に並んでいた。それぞれが松明を手にしているので、遠くから見るとまるで炎が山を登っているようなんだと。
こっちは呑気に並んでいるヒマはない。儀式が始まるのを今か今かと並びながら待つ村人達の列を無視して、俺達は入り口までずんずん登っていった。
山道を登りきり、炎の山内部に通じているらしい入り口に辿り着く。すると長老が現れて、火送りの儀の開始を告げた。
「皆の者、待たせたな。いよいよ火送りの儀を執り行う」
「いよっ、待ってました!一番乗りはこのオレだぜいっ」
長い列の先頭で待っていた奴が長老の言葉に歓声をあげた。セリフだけ聞くとまるでガキのよーだが、立派な大人である。
「これこれ、慌てるでない。これは炎の神に新たな守り火を頂くための大切な儀式。もっとおごそかにしめやかに執り行なわねばならんのじゃぞ……。おや、」
クドい説教の途中で、長老は俺達に気付いたようだ。列無視してきたの怒られるかなー。
「おお、そこにおられるのは旅の方達じゃな。ささ、こちらへこちらへ」
「えーっ、一番乗りはこのオレだぜっ。ズルイじゃねえか!」
先程の男が不満げに言う。もう一度言うが、ガキではなくてちゃんとした大人である。
「まあ良いではないか。せっかくはるばる来てくれた旅の方達なんじゃぞ」
どうやら俺達を特別ゲストという事で、律儀に並んでた村人達よりも先にその火送りの儀とやらを体験させて
くれるようだ。やりー。長老大人ー。
…なんて喜んでる場合じゃない。ここから俺達の仕事が始まるんだよな。
長老に続いて入り口から火山の中に入り、俺達は火口の前にやってきた。足下の大穴のはるか底では真っ赤な溶岩がぐらぐら沸いている。熱気もムンムン伝わってきてて、威圧感あるわ、こりゃあ。
「ここが炎の山の火口じゃよ。この火口におぬし達の持っとる松明を…こうやって投げ入れるんじゃ!」
と、長老は自分の持っていた松明を火口にぽいと投げた。って結局てめーが一番乗り取ってんじゃねえかよ!
「これで長い間わしらを守ってくれた炎は神のもとへ帰っていったという訳なんじゃ。さっ、おぬし達もその炎を神のもとへ返してやってくれまいか」
成る程、この作業がいわゆる「火送りの儀」ってやつなんだな。俺は長老にならって、松明を投げ入れた。
「火山に火をくべるってのも変な話だよな……。それっ!」
「うわーっ、ここから落ちたらどうなるのかしらー。はいっ!」
キーファもマリベルも同じように炎を投げ落とす。長老は満足そうに頷いた。
「うむうむ。それでは今度は村の者達の番じゃの。おぬし達は先に村へ帰っても構わんぞ。御苦労じゃったな」
ここで本当に帰ったらシャレにならん事になってしまう。俺達は最悪の事態を回避すべく動き出した。
と、さっき俺達が火送りの儀を行った場所のちょうど向かいに、パルマの弟子のエルマという女が立っているのが見えた。
ねえ、何してんの?
後ろから話しかけてみるとエルマは一人で飛び上がって驚いた。
「びびび、びっくりした!急に声をかけないでください。おっこちたらどうするんですかっ。パミラ様ったら、あたしにこんな危ない所を見張ってろなんてヒドイ!」
悪い悪い。で、パミラ婆さんはっと…。あ、すぐ後ろにいた。
パミラは、何かの入り口の前に険しい顔で立っている。火山内部で行ける場所がここ以外にもあるんだろうか。
「おぬし等か…。遅かったな。とうとう火送りの儀が始まってしまいおった。もう一刻の有余もない。おぬし等は急いでこの炎の山の奥へ向かうのじゃ。そこできっと何か異変が怒っておるに違い無いのじゃが…。炎の山の奥には恐ろしい魔物達が住むという。危なくなったらここへ戻れ。キズはわしの薬であらかた治せるじゃろう。神官のマネごとも出来るしな。…む!」
話の途中で、村人達による火送りの儀が始まった。一人ずつ、松明を火口に投げ入れていく。
パミラは俺達に向き直ってこう告げた。
「ただし時間がない事を忘れてはいかんぞ。出来るだけ急ぐのじゃ!村の者全員が松明を投げ入れた時、火送りの儀は終わる。その前に何とかしてくれ!」
あの村人の列の最後に並んでいたのは、祭りのために呼ばれたダンサーの姉ちゃんだった。その姉ちゃんが火送りの儀を行ったら……。俺達が見た幻がバッチリ再現されちまうって訳なんだな。
「よしアナゴン!いよいよ火山の中へ出発だ!」
「火山の中へ行くのかあ。変なものが出たらあんたに任せるからねアナゴン!」
はいはいっと。そうと決まれば超特急で火山の奥まで行ってみましょうかね!
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