石版の力が発動して、俺達はオレンジの光に飲み込まれた。…と思ったら夢か幻か、妙な映像が目に飛び込んできた。
派手な格好した女が、火山の火口らしき穴に炎のともった松明を投げ入れるんだ。すると突然大きな火柱がそこから上がって轟音とともに大噴火。高い山のてっぺんから吹き出した溶岩が辺りに降り注ぐ、といった場面が…。
……。着いたのか。
と同時に俺達は顔を見合わせ、さっき見た幻の事を口々に言い出す。
「あービックリした!あんなおっかないのは初めて見たわよ!」
「あ、やっぱりお前にも山が火を吹くのが見えたんだな。何だったんだろうあれは?」
なんと俺達3人とも同じものを見ていたらしい。ただの夢にしちゃ変に生々しくて迫力あったし、皆が皆揃って同じもの見るなんてなあ…。
…とと。まずは今の状況を把握する事が先だな。
気をとりなおして辺りを見回してみた。やはり知らない場所だ。
目につくのは山。どっちを向いても岩山がそびえたっている。あっちのほうにずっと続く道も岩山に挟まれているのが見えた。そして、エスタード島と比べて空気が暖かだと感じる。もしかしてこの山は火山なんだろうか。
あと、俺達が出て来た場所にあの青い光の渦が留まっているのに気付いた。消える気配がないので、きっといつでも元の世界に帰れるんだろう。
ここで分かるのはそれくらいか。そろそろ動くとしよう。
とりあえず落ち着ける街か村を探して、俺達は岩山沿いの道を歩き始めた。
「ふーん、ずいぶんと質素で殺風景な村だなあ」
いきなりソレかキーファ。ちょっとあんまりだぞ。
俺達が辿り着いたのは、この辺りでもひときわ大きな山のふもとに位置している小さな村だった。確かにキーファの言うとおり殺風景で、ヒビ割れた地面には草花もほとんど見当たらない。簡素な石造りの家屋が立ち並んでいるだけの茶っこい村だ。
「あらまあ!あんたたち旅の人かい。珍しい事もあるもんだ。 ここはエンゴウの村だよ。何にもない村だけどゆっくりしていっておくれ。そうすりゃもっといいモノが見れるかもしれないよ!」
エンゴウの村か。ざっと見回してみたところでは、前のウッドパルナみたいに問題のある場所にも思えないけど…。
その辺を歩き回って情報を集めて分かった事。どうやらこのエンゴウは、炎を神として崇拝している民が住んでいるようだ。村の四方にある聖火台には常に炎が燃え盛っているのもその風習が関係しているらしい。
そして先程から頻繁に地面が揺れる。エスタードでは地震なんで滅多にないもんだから、俺達はそのたびにビクっとするもんだが。ここの人間にとっては珍しい事でも何でもないらしい。それどころか、「ほむら祭りが近い」とか言って喜んでいる様子だ。地震の多い時期にやる祭りがこの村にあるみたいだな。
「祭りなんかやってる場合じゃないんじゃないの?」
マリベルがどこか不安そうに呟く。この世界に来る時に見た、あの幻が気になってるみたいだ。
エンゴウのすぐ後ろにある高い山。神が住む『炎の山』として、村民達が崇めている火山だ。この地域は北(どこから見て北なのかは分からないが)に位置するらしいが、あの火山のおかげで温かいんだと。
まあそれはいいんだが…。マリベルが気にするのも無理はない。あんな幻見ちまった後じゃあ、俺達にとってはありがたみも何もあったもんじゃないぞ。もし本当にあの山が噴火なんぞしたらこんな小さな村、跡形もなくなるだろうな。
ていうか、俺も気になる。とても気になる。
3人揃って同じ幻を見たというのもそうだが。キーファやマリベルはともかく、あの日パルナとマチルダの過去を夢でバッチリ見ちまったこの俺様が見たんだから。これは何かあると思っていいんじゃないのか?
何か嫌な予感がするなー。
どーも気になるんで、ここの長老に挨拶がてらこの事を伝えてみようと思い立つ。
長老は村の正面奥にある一番大きい家に住んでいた。「長老」っていうからそれなりに威厳のある奴かと思いきや、見た目はそのへんにいるハゲ頭のおっちゃんだった。
なんて俺が考えている事など思いもせず、長老は俺達を迎え入れる。
「おお…、おぬし達は旅の者か。エンゴウの村へよく来たのう。おや……」
ゴゴゴゴゴ…
うわっと!また揺れた。
「ふむ…これで今日何度目の揺れじゃったか。もうすぐ…もうすぐじゃな」
むーう。心臓に悪りいな。
「おや、どうしたんじゃね。おかしなカオをして」
…誰がおかしなカオだこのハゲ!俺達は地震に慣れてねーんだよっ。あんなデカい火山そばにして、何度もこんな地震味わってたらいつドカンとくるか気が気じゃねーっての!
ていうか、選ばれし予知夢ラーの俺様によるとあの山は本当に爆発するってカンジです。
「何?火山が爆発する?わははは、何をバカな…。我らは神の怒りを買うような事をした覚えはないぞ!炎の部族であるエンゴウの民を、炎の神が自ら炎で襲う事などありはせんわ。ましてやもうすぐ炎の神をたたえるほむら祭りが行われるという時なんじゃぞ」
俺の懸念と忠告を長老はあっさり笑いとばした。それどころか…。
「ふむ…。さてはおぬし達、炎の山のお姿を見てちょっとビビりおったな?」
よりにもよって俺達を臆病者呼ばわりしやがったのだ。おのれハゲが!
「わははは。気持ちは分かるが、なーに心配する事などありゃせんよ。時が来れば炎の神はその身をよりいっそう激しく震わせ、我らに教えてくれるじゃろう。それまでこの村に宿をとり、しばらく留まってみてはどうじゃ。そうすれば、おぬし達の心配が意味のない事と分かるじゃろうて」
ううーむ。どう思い知らせてやろうかあのハゲ長老。さっさと元の世界に帰っちまってこの村見捨ててやろーかい。なんてな。
「そう簡単には信じてもらえないだろうなあ。まあ仕方ないか。少し宿屋で休もうぜアナゴン」
まあ、確かに突拍子もない話だしなあ。これ以上何を言っても無駄みたいだし。本当、「炎の神」とやらを崇める風習が染み付いていて入るスキがなかった。神様なんて信じてない俺にとっちゃあ、エンゴウの連中が言っている事はいまいちピンと来ないんだよなあ。
でも、俺は確信していた。きっと何かが起こる。ウッドパルナの時もそうだったように、俺達はエンゴウで何かをしなきゃいけない。その為にここにいるんだ。俺達がここに導かれたのにはちゃんと理由があるんだ、絶対な。
ずっと村の中をウロウロしてて休息の事をすっかり忘れてた俺達は、一晩宿をとった。
そして翌朝、目覚めてみると何やら外が騒がしい……。
こりゃ、何か始まりましたな。
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