結局、俺達は戦いに参加してしまった。
そして戦いが終わった今、物凄く後悔している。
マチルダは、ただの一度も攻撃をしかけては来なかったのだ。床に倒れふすまでずっと防御に徹し、こちらの攻撃に耐えていただけだったのだ。
横たわるマチルダを前に、ハンクが口を開く。
「これ以上、あなた方をつらい目に会わせる訳にはいきませんな……。とどめは……私がさしましょう」
!!
「な…なあ、アナゴン!本当にこれで良かったのか!?いくらなんでも、このままじゃマチルダさんが可哀想すぎるだろ!」
キーファが半ば叫ぶように俺に訴える。
………いいわけねえだろが!
俺はとどめを刺しにマチルダに近付いていくハンクを止めた。
そんな俺の顔を、ハンクはまっすぐに見つめる。
「理解してください…。私とて村の英雄の妹を斬る事を本意とは思いません。しかし、誰の差し金かは知らないが、女が戻らねば私の村は死ぬのです」
そんな事は俺にだって分かっている。でもマチルダは、20年の間悲しみ続けたんだ。パトリックと出会ってからは人間だった頃の良心と魔物の心との間でゆれ動いてたんだろう。俺達を助けてくれた時だって、きっとそうだったに違い無い。そんな悲しみや苦しみを散々味わった挙げ句、自分の命をカギに使われ今まさにここで殺されようとしているなんて。
ひょっとしたらあの夢も、彼女のそんな気持ちが見させたものなんじゃないだろうか。
理屈じゃない。俺はこれ以上、後悔したくはなかった。
俺の気持ちが分かるのか、ハンクも辛そうな顔をしている。しかしその覚悟は揺らいではいない。
「村を救い……この島の闇をはらう手段がこれしかないのなら、私はあの女を斬らねばならない」
「ちょっ…ちょっと待ちなさいよ!あ…あんた、女を斬る気なの…」
マリベルのあげた非難の声は、震えていた。
「マリベルさんと…言いましたね」
はっとする俺達。マチルダが言葉を発したのだ。
「ありがとう…。あなたは心の優しい人だわ。 アナゴンさん達……。私と初めて出会ったあの森を覚えていますね?あの森の奥をもう一度おたずねください。これが、私にできる全て…………」
マチルダの身体が、静かに宙に浮いていく。
「マリベルさん……。花のタネ……嬉しかったです。ありがとう………。ぐふっ…」
そして、消えていった。
「空が……綺麗に晴れ渡りましたな」
塔の外に出た俺達が見上げた空は、つい今まで広がっていた闇が嘘のように青く晴れていた。ずいぶんと目にしみる。
「しかし…とてもではないが、心まですっきりと晴れた気分にはなれん……」
つぶやいたハンクだけではない。皆同じ気持ちだった。マリベルは俺が話し掛けようとすると、それを拒んだ。
「…………。悪いけど、あたしに話しかけないでくれる? ……今、何も喋りたくないの」
キーファの表情も沈んでいる。
「なあ…アナゴン。確かに空は晴れたけど、本当にこれで良かったのかな? それに…マチルダさんが言ってたあの方って…一体、誰の事なんだろうな」
あの方…。
マチルダをそそのかして悪に染め、その命をカギに使った奴。ウッドパルナを闇に沈めた張本人がどこかにいるのか。
…でも、今の俺達がいくら考えたって何も分からないし、何も出来ない。
そんなやりきれない気持ちをひきずりながら、俺達4人はウッドパルナの村へと帰って来たのだった。
さらわれていた女達は全員無事に戻っていた。村には活気が生まれ、これなら復興もなんとかなりそうな感じだ。
村人達からの感謝の言葉を受けながらパトリックの元へ。もう魔物に怯える必要はないのだと伝えると、
「ホント!?じゃあボクはマチルダを探しに行って来るよ!マチルダも絶対に喜ぶと思うな!」
何も知らないパトリックは嬉しそうに駆け出して行く。
そんな息子の背中をしばらく見送り、ハンクは俺達を家の中に入れた。
「闇は払われ…女達も無事に村に戻って来た。全ては元に戻ったのです。…だというのにこの報われない気持ちは一体何なのでしょうな。 英雄パルナの妹……。できる事ならこの村で、平和に生きさせてやりたかった…」
そうだよな。村は元に戻ったけど、何も悪くないのに一番苦しんでいたマチルダは死んでしまったんだ。俺達の目の前で。
村は救えても、闇は消えても、彼女を救う事は出来なかったんだ。
…こんな気持ち、味わうのなんか生まれて初めてだよな。自分に出来る事を精一杯やったつもりなのに、理不尽な力の前に結局、一番肝心な所はどうにもならなかった。ガラにもなく沈んでしまう。
「……さて、いつまでも私のムダ話にあなた方を付き合わせる訳にはいきませんな。英雄パルナの妹があなた方に言っていましたな。出会った森の奥へ行け…と」
ああ、そういばそんな事言ってたっけな、マチルダが。
「そこに行けばあるいは、あなた方が自分の国に帰る手がかりがあるやもしれません。もしも何もなければ……その時には私があなた方を生涯お守りいたしましょう」
いや、気持ちは有り難いけどそれはちょっと。
「アナゴンさん方、命を救って頂いたご恩はこのハンク、決して忘れません。寂しいですが、あなた方が自分の国に帰り、これが長い別れになることを祈っております。 さあ、行かれるといい。さようなら、アナゴンさん方」
こうして俺達はウッドパルナを後にして、最初に飛ばされてきた森へとやって来た。そこは無気味な闇が消えたせいで、来た時とはまるで様子が違っている。
「あ、アナゴンさん達。見てよ、このへんにだけ花が咲いてるんだ」
マチルダと初めて会った墓の前にいたのは、彼女を探しに出ていたパトリックだった。墓の周囲は花でいっぱいだ。マリベルがマチルダに渡したあのタネが咲かせたのか…。
「あーあ、マチルダにもこれ見せてあげたいのに、どこ行っちゃったのかなあ…」
この子が真実を知る日はいつか訪れるんだろうか。
そう思いながら俺はパトリックに、マチルダからだと言ってあの木彫りの人形を渡した。
「花が…咲いたね。……これならマチルダさんも、きっと喜んでくれるね」
やっとマリベルの顔に笑顔が戻る。
心の曇りが、少し晴れたような気がした。
パトリックと別れ、森の奥に進んでいく。
俺達が最初にブっ倒れていた場所に、青い光の渦が出現していた。
マチルダが言っていた「私に出来る事の全て」というのがこれならば……。
俺達3人は、その渦に飛び込んだ。
あの時と同じ感覚に襲われ、そして意識が飛んでいく…。
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